+ 死と再生 +




聖暦647年。ゲルマニクス王国、シュヴェービッシュ・グミュント。
「お母さんなんて大嫌い!死んじゃえばいいんだ!!」
非道く顔の整った子供が、そう云ってから数時間もしない内に、彼の母親はこの世を去った。
それからというもの、少年は暗い部屋にずっと独りだ。
元々その少年には不思議な力があると噂されていた。
少年がまだほんの赤ん坊の頃。
彼が遠くにあった人形を、まるで糸か何かで手繰り寄せているように宙を飛ばすといった事が度々起こった。
小さな村では、その力はあまりに強大すぎて、誰もがその少年を神の子と称えていた。
しかし、その子の母親が死んでからは、その少年を誰も神の子と呼ばなくなった。
実の父も少年を恐がり、彼を部屋に閉じ込めて一歩も外に出さなくなってしまった。
少年は何故自分が薄暗い部屋に閉じ込められているのかを考えた。
母親が死んだことは事実だが、事故死だったのは誰の目から見ても明らかだった。
しかし確かに少年が母親に対して云ってはならない言葉を云ってしまったのも事実だ。
少年はある日食事を運びに来た父親に聞いた。
「何で僕はお外に出て遊んじゃいけないの?」
それに対し彼の父親は額に脂汗を玉のように噴きながら切れ切れに答えた。
お前が悪魔の子だからだと。
それから少年は来る日も来る日も部屋の唯一の光源である小さな窓から聖十字架教会――街のシンボルを眺め続けた。
陽が窓に入らなくなってから何時間経った頃か、突然俯いていた少年の前を何かが過ぎった。
「誰?」
少年の前には黒い闇を具現化したような、髪の長い男が佇んでいた。
「ほう。君は今の私が見えるのか」
少年には男が何を云っているのかが解らなかったので、首を傾げた。
「ああ、気にしないでくれたまえ。私が見えるのらば話は早い。君、名前は何と云う?」
「ディート。ディートリッヒ・ローエングリューン」
「ディートリッヒか。良い名前だ。どうして君はこんな部屋に居るんだ」
「それは僕が“あくまのこ”だからなんだって」
その返答に男は無言で少年を見下ろしていたが、暫くすると屈んで少年と目線を合わせて云った。
「ディートリッヒは外に出たくないか」
「出たい!」
少年は大きな目を輝かせて即答した。
「私と一緒にくればこんな処に閉じ込められることもなく、存分に外に出ることが出来る。どうだ、私と来るか」
男の背後が少年の見たこともない闇色で奇妙に宙をたゆたっている。それ見た少年は男に付いて行けばもう“此方”には戻ってくることはないだろうことをおぼろげながらも確信した。
しかし少年は差し出された大きな手を力一杯握り返した。
今の少年には“外”という言葉が絶大な威力を発していたのだ。
すると男は少し口元を綻ばせて少年を腕に抱えた。
「今日から君の名前はディートリッヒ・フォン・ローエングリューンだ」
少年は男の漆黒の背広をしっかりと握り締めて聞いた。
「あなたは誰?」
「私は……まあ、取り敢えずイザーク・フェルナンド・フォン・ケンプファーとでも云っておこう」
男が名乗り終わった時、そこは既に少年の慣れ親しんだ家ではなかった。

ディートリッヒは髪が汗で頬に貼りつく厭な感触で目を覚ました。
「随分うなされていたな」
先程まで一緒に寝台にいた男は、ディートリッヒの寝ている寝台から少し離れた位置にあるソファーに背を預け、新聞を読んでいた。
「…………」
「何か用かね」
「……別に」
イザークは相変わらずの無表情で本から目を外す事がない。
その端正な顔は、ディートリッヒが10年以上も前に逢った時から何一つと変わらない。
彼は一体、何なのか。



E n d e .





ディートが幼少期にシュヴェービッシュ・グミュントに住んでいただなんて、
黒河のまるっと100%捏造のコーナーですよ。。。
タイトルは『死と再生』と、『通過儀礼的な死と再生』で悩んでいたのですが、
結局短い方に決定しますた。。。
ディートが騎士団に入団したのは、イザークという人攫いが居たから、、、という話ですな。
少し書きたい部分を削除してるので、それもきっとその内に……決意。






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